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2.122026
【研究紹介】目標の難易度、心理的資本、そして仕事へのエンゲージメント(European Accounting Review 記事より)

「困難な目標」は従業員のエンゲージメントを高めるか?―カギを握る「心理的資本」の効果を実証
企業の業績管理において、「目標設定(Target Setting)」は欠かせない要素です。一般的に、容易な目標よりも「困難な目標」を設定する方が、従業員の努力を引き出しパフォーマンスを高めると考えられています(目標設定理論)。しかし、過度なプレッシャーは逆効果になることもあります。では、高い目標を「意欲(ワーク・エンゲージメント)」に変えられる人と、そうでない人の違いはどこにあるのでしょうか?
2025年1月に『European Accounting Review』で公開された研究論文により、その決定的な要因が「心理的資本(Psychological Capital: PsyCap)」にあることが、日本国内の大規模調査で明らかになりました。本コラムでは、管理会計と心理学を融合させたこの興味深い研究結果をご紹介します。
1. 研究概要
本研究は、横浜市立大学の黒木 真 氏らによって行われ、日本の大手上場企業の従業員1,404名を対象に実施されました。
企業がトップダウンで設定する「目標の難易度」が、従業員の「ワーク・エンゲージメント(仕事への活力・熱意・没頭)」にどのような影響を与えるか、そしてその関係性に「心理的資本」がどう関与するかを分析しています。以下の3つの要素がどのように影響し合っているかを分析しています。
・心理的資本(PsyCap): 「Hope(希望)」「Efficacy(自己効力感)」「Resilience(レジリエンス)」「Optimism(楽観性)」からなるポジティブな心理的リソース
・目標の難易度(Target Difficulty): 会社から与えられた目標の厳しさ
・ワーク・エンゲージメント: 仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」
2. 調査結果のハイライト
①「困難な目標」は、基本的にはエンゲージメントを高める
全体的な傾向として、目標の難易度が高いほど、従業員のワーク・エンゲージメントは高くなるという正の相関が見られました。適度なハードルは、仕事への没頭や活力を引き出す源泉となり得ることが示唆されています。
② 心理的資本が高いほど、その効果は「強化」される
本研究の最大の発見は、心理的資本(HERO:希望、効力感、レジリエンス、楽観性)が、目標とエンゲージメントの関係を調整(強化)しているという点です。
- 心理的資本が高い従業員:
困難な目標に直面した際、それを「脅威」ではなく「挑戦」と捉えます。その結果、目標が難しくなるほどエンゲージメントが強く向上する傾向が見られました。 - 心理的資本が低い従業員:
困難な目標に対してポジティブな心理状態を維持しにくく、エンゲージメントの向上が緩やか、あるいは低下するリスクがあることが示唆されました。
③ 特に「勤続年数の浅い」従業員に効果顕著
この傾向は、ベテラン層よりも勤続年数が短い従業員において強く見られました。経験が浅い段階では、業務への慣れよりも「心理的なリソース(心の基礎体力)」の有無が、プレッシャーへの適応を大きく左右すると考えられます。
3. 日本心理的資本協会としての考察と提言
この研究結果は、経営者や人事担当者、マネージャーに対し、目標管理における「心理的側面」の重要性を伝えています。
●一律の「高い目標」にはリスクがある
「高い目標を与えれば育つ」というのは、受け手側の心理的リソースが潤沢であってこそ成立します。心理的資本が不足している状態で困難な目標を課すことは、エンゲージメントの低下を招く恐れがあります。心理的資本が不足している状態で、ただ数字だけを厳しくしても、社員は疲弊するだけかもしれません。しかし、心理的資本が充実していれば、高い目標は彼らを成長させる絶好の機会となります。
●「目標設定」と「心理的資本開発」はセットで考える
企業が高いパフォーマンスを求めるのであれば、単にノルマを課すだけでなく、その土台となる心理的資本(Hope, Efficacy, Resilience, Optimism)を開発する支援が不可欠です。心理的資本は、トレーニングによって後天的に高めることが可能です。「どうすれば目標を達成できるか(Hope)」「自分ならできる(Efficacy)」「失敗しても立ち直れる(Resilience)」「前向きな見通し(Optimism)」
これらのリソースを組織的に育むことで、従業員は「困難な目標」を成長の糧に変え、生き生きと働くことができるようになります。
日本心理的資本協会では、科学的根拠に基づいた心理的資本の開発手法や、組織への導入支援を行っております。「目標達成」と「従業員の幸福(Well-being)」を両立させる組織づくりについて、ぜひお気軽にご相談ください。
参照文献:
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09638180.2025.2451153#d1e157




















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