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2.92026
【研究紹介】アスリートの「燃え尽き(バーンアウト)」を防ぐ心理的資本の効果―ストレス下における対処能力と回復力のメカニズム

スポーツ心理学の分野において、アスリートの「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は、選手生命や心身の健康を脅かす深刻な課題として注目されています。
2025年1月に『BMC Psychology』にて発表された研究論文により、心理的資本(Psychological Capital: PsyCap)がアスリートの燃え尽きを抑制する重要な「保護因子」であることが科学的に実証されました。
心理的資本がどのようにストレスと作用し、アスリートのメンタルヘルスを守っているのか、そのメカニズムに関する研究結果をご紹介します。
1. 研究概要
本研究は、344名のアスリートを対象に、以下の3つの要素の関係性を調査しました。
■心理的資本(PsyCap): 希望(Hope)、自己効力感(Efficacy)、レジリエンス(Resilience)、楽観性(Optimism)からなるポジティブな心理的リソース
■対処戦略(コーピング): ストレスに対する認知や行動のパターン(適応的か、非適応的か)
■知覚されたストレス: アスリート自身が感じているプレッシャーや脅威の度合い
2. 主な研究結果
データ分析の結果、心理的資本がアスリートのメンタルヘルス維持において極めて重要な役割を果たしていることが明らかになりました。主要な発見は以下の3点です。
①心理的資本は「燃え尽き」を直接的かつ強力に抑制する
心理的資本(HERO)が高いアスリートほど、燃え尽き症候群の症状(情緒的消耗、達成感の低下など)が低いことが示されました。心理的資本が「心の防波堤」となり、過酷な環境下でも精神的な消耗を防ぐ効果があることが確認されています。
②「適切な対処(コーピング)」を促すことで間接的にも守る
心理的資本の高さは、ストレスへの向き合い方にも影響を与えていました。
- 心理的資本が高い選手: 問題解決に向けて行動する、周囲に支援を求めるなど「適応的な対処」をとる傾向が強く、これが燃え尽きのリスクを下げていました。
- 心理的資本が低い選手: 問題から逃避する、否定するといった「不適応な対処」に走りやすく、結果としてストレスを溜め込みやすい傾向がありました。
つまり、心理的資本は単に気持ちを強くするだけでなく、「困難に対して建設的な行動を選択させる」というプロセスを通じて、選手を守っていることがわかります。
③ストレスが高い状況ほど、心理的資本の真価が発揮される
本研究で最も注目すべき点は、「ストレスレベルが高い時ほど、心理的資本の保護効果が高まる(調整効果)」という発見です。
- 低ストレス下: 心理的資本の高低による燃え尽きリスクの差は比較的小さい。
- 高ストレス下: 心理的資本が高い選手は燃え尽きを強力に回避できる一方、低い選手はリスクが急増する。
これは、心理的資本が平時だけでなく、逆境や高プレッシャー下においてこそ不可欠なリソース(資源)であることを示唆しています。
3. 日本心理的資本協会としての考察と提言
本研究結果は、スポーツ界のみならず、高ストレス環境下でパフォーマンス発揮を求められるビジネスシーンにも通じる重要な示唆を含んでいます。
・介入の重要性:PsyCapは開発可能である
心理的資本(HERO)は、先天的な資質ではなく、トレーニングによって開発可能なリソースです。燃え尽きを防ぐためには、単に「休ませる」「負荷を下げる」といった環境調整だけでなく、個人の内的なリソースである「希望、自己効力感、レジリエンス、楽観性」を高める介入(トレーニング)が有効であると考えられます。
・ストレスマネジメント教育との併用
また、心理的資本を高めることは、適切なストレス対処(コーピング)スキルの習得にもつながります。組織や指導者は、スキル教育と並行して、その土台となる心理的資本の開発支援を行うことが推奨されます。
4.まとめ
本研究により、心理的資本はアスリートの燃え尽き(バーンアウト)を防ぐための強力な緩衝材であり、特にストレスレベルが高いアスリートに対して、心理的資本を強化する介入が有効である可能性を示唆しています 。
日本心理的資本協会では、こうしたエビデンスに基づき、スポーツ、ビジネス、教育などあらゆるフィールドで「心理的資本」の開発と普及を推進してまいります。
参照文献:
https://link.springer.com/article/10.1186/s40359-025-02379-8











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